午後、家を出たら風が冷たくて、息子と思わず顔を見合わせ、二人で目を細めた。
近所のスーパーまでの道のり、ユキヤナギの真っ白い小花とレンギョが咲き誇り、歩道を飾る。
「わあ、きれいだねえ、お母さん。」
どこからか水仙の強い香りが鼻を突き抜けていった。
「お母さん、なあにこれ!」息子は驚いて鼻をひくひくさせた。
帰り道、途中の公園のメタセコイアの並木道に差しかかるとき、もう日は暮れかけていた。頭上に張った枝の間には月がちらと見えた。
並木道を抜けて空が広がったとき
「お母さん、すごいものみえたよ。」
急に息子が叫んだ。
「あそこ、お月様ところに雲が、ももいろの鳥の形でね、その鳥がこう羽ばたいてね、飛んでいったんだよ。」
風にさらされ両頬を赤くして嬉しそうに言う。
急いで見上げた先には、淡い群青色の空に月がぼんやり浮かび、薄い紅を一差ししたように、ちぎれた一片の雲だけがあった。
ただきれいだなあとしばらく我を忘れて眺め入った。
買い物に出ただけ、それが4日ぶりの外出だったから、冬眠開けの熊の親子のように、楽しい散歩になったのかな。